| 奥田のコラム(NO132)日本・カナダ共同制作映画「カラカラ」物語その二 | ( 2011/12/23 ) | | 「カラカラ」とは、沖縄ではお酒(泡盛)を入れる器(陶器)の事です。 日本・カナダ共同制作映画「カラカラ」のストーリーは、心に深い悩みを持つ、カナダ人の大人の男性が、¨人生の悟り¨を求めて 沖縄での気功のワークショップに加わり、その後に出会う沖縄の女性や、人々の優しさ、沖縄の風景などを通して、あたかもカラカラの中に美酒が満ちるように、自らの心にも安らぎが満たされていく「心の旅路」を描く作品だと聞いております。
映画「カラカラ」出演の記(その二)
私の役柄は、ワークショップでの気功の先生と言う事ですが、とにかく3〜4分の英語のセリフを覚える事が第一の関門でした。台本読みでは90点を付けてもらったのですが、監督が期待したセリフは、上手過ぎず、下手過ぎず、自然さが伝わる英語だったのです。 たくさんの試行錯誤の末に辿り着いたところは、やはり自分流の英語でしかありませんでした。私は意を決して本番に臨んだのですが、撮影終了後に監督から、まさかの嬉しい言葉をかけてもらい、安堵の胸を撫で下ろした事でした。
第2の難題は、この映画の中で使用される気功の実演でした。私は自分が知っている自分流の気功を演じればよいとばかり思っていたのですが、要求された気功は、見た事も、聞いたこともない、まるで別世界のものでした。それは中国崑崙山脈に1000年以上も続いているという、何とも優雅で、何とも神秘的な「大雁気功」(The Wildgoose Quigong)という気功でした。
監督はこの気功を私には二か月で覚えて欲しいと言うのです。あまりのハードな注文に、私は途中で何度も逃げ出そうと思ったのですが、そんな私の空気を察してか、助監督さんが,『これを参考にして頑張ってください』と言って、一枚のDVDを渡してくれました。 そのDVDの中には、この映画の中で監督がイメージしている¨大雁気功¨の全貌が入っていたのです。
私はこの映像を見た瞬間から、この気功の虜になってしまい、これはもしかして神様が私に与えて下さった生涯のテーマであり、私の一生の宝物になるものかも知れないという思いが身体中をよぎったのでした。 私は何が何でもこの二か月で、この気功を自分のものにしようと決意を新たにしました。そしてこの日から朝も、昼も、夜も、真夜中も、この大雁気功の世界に没頭する日々が続いたのです。
あまりにのめり込んでしまい、時には気功の世界から逃れたいという思いも何度かありましたが、撮影の日は12月8日と決まっております。自分で自身を励ましながら、撮影の前日までには、とりあえずなんとか満足のいくところまで辿り着く事が出来ました。
ある日、助監督さんと昼食を一緒にした時に聞かされた二つの話が今も強く印象に残っております。その一つは、この映画「カラカラ」は、台本を書く時点で、気功の先生役は DVDの中で演じている中国系カナダ人の先生に決まっていたのだそうです。それが、少し体調を崩されたのと、日本中が放射能で汚染されているとの印象から、日本行きを断念される事になり、急遽、私にその役が向けられたと言うのです。
私はこのいきさつを耳にした時,これはやはり天が授けて下さった出来事かも知れないと思わずにはいられませんでした。1000年以上もの歴史が続いているその一番手前のところで、自分がその気功に携わる事の出来る運命の不思議に、心が震え、奇跡とも思えるようなものを感ぜずにはいられませんでした。
そしてもう一つの話は、「映画づくりは奇跡の積み重ねから生まれるものです。奇跡の数や深さが大きければ大きい程、まさかの映画が生まれてくるのです」と言う話です。 そう言われてみれば、撮影当日の日も、天気予報は雨でしたのに、この日の撮影の絶対条件であった日の出が、わずか30分位だけ、真っ赤な太陽が雲の間から姿を現した時など、身震いを覚えるほどの奇跡を感じたのでした。
日本・カナダ共同制作映画「カラカラ」はどうやらそんな奇跡の積み重ねの中から生まれた映画になるのかも知れません。 私自身も75歳にして、このような映画との出会いなどあり得るはずもない奇跡と思う他はありません。とにかく二か月間の出来事でしたが、私は素人なりに全力を尽くして、この映画に身を投じきったと思っております。この映画に出会えたご縁と、奇跡に深く感謝の手を合わせるばかりです。
2011年12月8日の午後8時、私の撮影の全ては終わりましたが、監督がやって来て私をしっかりと抱きしめて下さり,『今度の映画の最大のミスキャストはあなたでした』と声をかけて下さいました。この言葉に一瞬戸惑いましたが、この言葉の持つ意味を知るにつけ、今はしみじみとこの言葉の喜びに浸っているところです。 ガニオン監督、丹野助監督、そしてかかわって下さった全ての方々に、心から感謝を捧げて、映画「カラカラ」出演の記とさせていただきます。有難うございました。 (2011年12月23日の記)
*この映画は、撮影したすべての資料を一旦カナダに送り、そこで編集され、2012年のカンヌ国際映画祭にもエントリーした後、日本での放映は2012年秋ごろになる予定だそうです。
写真上:映画「カラカラ」撮影風景 写真中:映画「カラカラ」ガニオン監督演出風景 写真下:ガニオン監督ご夫妻との記念撮影 | | |